東京地方裁判所 昭和46年(レ)127号 判決 1972年8月01日
理由
一 被控訴人田村関係
(一) 請求原因(一)は当事者間に争いがない。
(二) 《証拠》を総合すれば、控訴人の代理人である訴外武藤は昭和四五年一月二八日被控訴人田村に対し金二五万円を弁済期同年二月二七日利息損害金月四分の約定で貸付けたこと、右貸付に際し被控訴人田村は右債権につき執行認諾条項付の公正証書の作成代理権を訴外武藤又はその指定する者に与える旨を表示し、かつ貸金債権に関し執行認諾条項を含む公正証書作成委嘱の代理権を授与する旨不動文字をもつて印刷されている連帯借用証書(乙第二号証)、委任状(乙第八号証)(いずれも各債権額、弁済期、利率、代理人氏名欄は空欄)に署名押印したうえ、自己の印鑑証明書(乙第九号証)を訴外武藤に交付し、かつそれと同時に、被控訴人田村は右借受金支払のため、右借受金二五万円を支払金額、前記弁済期を満期、受取人を控訴人とする約束手形一通を振出して、これを訴外武藤に交付したこと、右借受金二五万円の弁済期は前記のとおり当初一カ月後とされていたが、被控訴人田村の返済資金調達の都合がつかないため、その後一カ月分の利息一万円を差し入れることによりその都度元金の弁済期を一カ月ずつ延期するとともに、被控訴人田村は弁済期を一カ月宛延期される度に右約束手形を書換え、最後に同年五月二七日、満期を同年六月二七日とする約束手形一通(乙第六号証)を振出したこと、そして被控訴人田村は右約束手形の満期である同年六月二七日を経過するも、右借受金二五万円の返済をしない為、控訴人の代理人訴外武藤は、前記被控訴人田村から受領した委任状、印鑑証明書を使用し、自己を被控訴人田村の代理人に選任し、控訴人は被控訴人を代理する訴外武藤との間で同年七月一六日執行認諾条項を含む本件公正証書を作成したこと、以上の事実が認められ、被控訴人田村本人尋問の結果中、これに反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(三) 以上の事実によると、被控訴人田村は本件公正証書作成当時控訴人に対し二五万円の貸金元本債務と、少くともこれに対する右履行期以降利息制限法による制限利率の範囲内で年三割六分の割合による損害金債務を負担していたというべきであるから、本件公正証書表示の債権はこれと合致する。
右事実によれば、訴外武藤は本件公正証書作成に当り被控訴人田村を代理しかつ当時控訴人の代理人たる立場にもあつたものであるけれども、公正証書の記載内容はあらかじめ被控訴人田村から指示された範囲内にとどまつているから、訴外武藤の行為は双方代理禁止の法理に反しないというべきである。
よつて被控訴人田村に関する限りその主張の理由により本件公正証書の執行力を排除することはできない。
二 被控訴人島田関係
(一) 請求原因(一)は当事者間に争いがない。
(二) 連帯借用証書(乙第二号証)、承諾書(乙第三号証)、公正証書作成用委任状(乙第八号証)中被控訴人島田の印影がその所有の印章により顕出されたことは当事者間に争いがない。
《証拠》を総合すると、被控訴人田村は昭和四四年一月ころ控訴人から五万円を借受け、被控訴人島田よりその印鑑証明書(乙第五号証)の交付を受けて右債務の保証を得たのであるが、昭和四五年一月一八日被控訴人島田に対し、右五万円の債務の履行期の延期のため書類を作成するのに必要であると告げて、被控訴人島田の印章および印鑑証明書(乙第一〇号証)の交付を受け、右乙第二、三、八号証中に右印章を押印したことが認められる。
よつて被控訴人田村は被控訴人島田の意思に反して右印章を使用したというべく、右印影あることをもつて右乙第二、三、八号証中被控訴人島田作成部分が真正に成立したと推定することはできない。
そのほか被控訴人島田が被控訴人田村とともに、本件消費貸借の連帯債務者となり、執行認諾条項付公正証書を作成することを承諾し、被控訴人田村に本件消費貸借契約の締結並びに右公正証書作成の代理権を授与したことを認めるに足りる証拠はない。
よつて被控訴人島田に対して右公正証書は執行力を生じない。
三 むすび
以上説明のとおり被控訴人田村の本訴請求は失当として棄却すべく、これと異る原判決を取消し、被控訴人島田の本訴請求は相当としてこれを認容すべく、これと同旨の原判決を相当として本件控訴を棄却
(裁判長裁判官 沖野威 裁判官 大沼容之 澤田英雄)